読書『行動障害支援に役立つアイデア集』志賀利一 編 林大輔 著(中央法規)

 私は以前、知的障がい者を支援する施設「横浜やまびこの里」を見学させていただいたことがあります。日本においてTEACCHプログラムをいち早く導入した先駆的施設であり、支援プロセスの確かさ、根拠に基づいた個別支援、視覚的支援の追求、それでも「もっと活動をやりがいのあるものにしたい」という探求心に心打たれました。ここで紹介する『行動障害支援に役立つアイデア集』の編集を務めている志賀さんという方は「やまびこの里」の方だということで、きっと勉強になるだろうと思い、読んでみることにしました。

 本書は表紙に「支援者ビギナー必須!」とあるように、知的障害や自閉症を持つ方への支援を始めて間もない支援者に向けて執筆されています。わかりやすい文章とのどかなタッチのイラストで、さまざまな場面での支援方法や障害特性などが説明されています。とても実用的です。私はグループホームや生活介護事業所で6年ほど働いていますが、「こういうケースあるある」と自分の経験と照らし合わせて読んでしまいました。

 本書は事業所で起こりうるさまざまなケースをかなり網羅して取り上げていると思います。自閉症の特性や自立課題の例、分析方法としての氷山モデルやABC分析などの基礎的な知識だけでなく、見守りの適切な距離や声掛けの仕方など実践的な内容が触れられています。中でも私が「こういうことも説明してくれるんだ」と思ったのが、フラッシュバックが起こる利用者に対する支援方法です。私は今までフラッシュバックが起きることと、自閉症の特性とは関係ないものとして考えていました。しかし、本書でははっきりと自閉症の方にはフラッシュバック現象が起こる人がいると書かれています。そのような方は、怒られた・注意された「失敗体験」がよみがえってフラッシュバックになりやすいといいます。支援では「成功体験」の積み重ねにより、行動問題を減らしていくという方法が提案されています。そしてトリガー(引き金)となりえる場所にいるのなら、その場所から別の場所に移動することが有効だと説明されています。それを知り、「引き金を引かないようにするためにはどうしたらよいのかを考えることが予防につながるのではないか」と私は思いました。

 とても内容が整理されているのでビギナーの方以外にもお勧めできる一冊なのではないでしょうか。