J.S.バッハ:モテット集 /マックス&ライニッシェ・カントライ(2012)777807

 「カントライ」の意味を調べると、古くはドイツ福音主義教会付属の学校で育成された聖歌隊のことを意味するとありました。ライニッシェ・カントライは1977年にヘルマン・マックスが立ち上げたドイツの合唱団です。当然、かつての「カントライ」ではなくプロの集団ではありますが、このアルバムを聴いて思うのは、確かに聖歌隊のような音楽的な質が感じられるのです。もう少し噛み砕いて言いますと、「聖歌隊のような」とは、まず言葉を大切にして、明瞭に発音しつつ、音の流れは極めて淡々としていて、素朴であるということなのです。

  この演奏は、聴き手をグッと引きつける仕掛けや音響的な特徴を持っていないように思えます。聴き始めはやや物足りないと感じていました。ドイツの合唱団特有の奥行きのある少しくぐもった暖かい響きは聴かれず、明晰でクセがなくこじんまりとした印象です。ところが、繰り返し聴く中で毎日使う日用品の使いやすさにも似た、耳に馴染む聴きやすさがあることに気づいたのです。

 バッハの英知が凝縮されたモテットにはさまざまな音響的工夫や構造的な堅牢さあるわけですが、マックスたちの演奏は、詩篇からコラールへの歌詞の変化、二重合唱が四声体に合流するフォーメーションの変化、ポリフォニーとホモフォニーの交替など場面の転換において、ほとんど速度や音色を変化させようとはせず、やや早めのテンポで淡々と歌っていきます。曲の締めくくりでは音を伸ばさず、盛り上げようとする素振りはほとんどないように思えます。

 耳に馴染むと感じた理由、それは余計なことをしていないことへの信頼性、純粋に音楽として美しいという事実でした。ライニッシェ・カントライの技術的な精度の高さは疑いようがなく素晴らしいものです。歌詞を鋭敏に捉え発音しているセンスは彼らの音楽に向き合う態度そのものだと言えるでしょう。