読書『見たことのない普通のたてものを求めて』宇野友明 著(幻冬舎)

 この美しい表紙絵は著者の娘さんが描いてくれたとのことです。普段、あまり建築のことを考えない私ですが、この柔らかい本の雰囲気に惹きつけられ読んでみることにしました。タイトルにある「たてもの」がひらがなで書いてることにもなんとなく柔らかさを感じました。

 著者の宇野友明さんは1960年愛知県生まれの一級建築士です。1990年に宇野友明建築事務所を設立し、個人宅の設計に携わっているとのことです。

 文中には「愛」という言葉がたくさん出てきます。宇野さんは建築を愛しているのです。「建物とは喜びであり、情緒である」と最初にあります。でも、だからこそというべきか内容の核には現代建築への憂いがあり、建築家としての理想を追い求めるストイックな姿勢が貫かれています。

 憂いの中で語られるのは「自然と建築」との関係性です。現代の建築は快適さ、利便性、清潔さなど均一な環境ばかりを求めており、安心安全への極端な希求は心の病を誘発するといいます。さらに、自然を模した見せかけの建築に対しては「のようなもの」と揶揄しています。それではだめだというのです。建築にとって大切なことは自然を受容し、「不都合な自然」と共にある暮らしです。自然の素材は割れたり剥がれたりします。それは手入れをすればいいのです。使い込むことで味わいが増して感性が養われていくと著者はいいます。

 そのような自然素材を大切にする宇野さんは現場の職人に大変な信頼を寄せています。「職人は現場の主役であり、私は裏方である」(p.116)と自認しています。何人かの職人とのエピソードの中から、現場の緊張感やアイデアの発散から収束にかけてのプロセスが伝わってきます。そして、施主とのやりとりも興味深く書かれています。読み手としては、オリジナルの家が建っていく過程を詳しく知ることができます。そこで生じるそれぞれの立場の心の動きも含めて。

 

 私が好きな文中の格言を紹介して結びたいと思います。引き算の美学を大切にしている著者ならではの卓抜した言葉の数々です。

 

・「”個性”とは”、意識するものではなく、消そうとしても滲み出てきてしまうものである」(p.113)

・「表現したことではなく、表現しなかったことにこそ作家性を際立させる。ある意味、もっとも積極的な行為といっていい。」(p.115)

・「簡素化は、知性の証である(『ムナーリのことば』より引用)」(p.98)

 

official siteより作品の一部(写真:西澤豊)