ヴィヴァルディ:調和の霊感op.3より/カフェ・ツィンマーマン(2011)ALPHA193

 カフェ・ツィンマーマンのヴィヴァルディは、可憐な美しさに満ちています。タイトで弾力感のあるベースのグルーブや、透き通るテクスチャーは、このアンサンブルのトレードマークと言えるかもしれません。「可憐」という表現を使いましたが、RV.265のラルゴを聴いてみてください。リーダーのバレッティとフリッシュは、至極さっぱりとしたテンポで音楽を始めています。一本一本のヴァイオリンが明確は発音と細い線で重なり合う中で、適度な緊張感が生まれていき、歌心あるフレージングが統一感をもって進行していくことにより、結果として奇跡的な美しさに達していると思います。

スーっと始まって、「感動させよう」なんて気配はまったく感じられないのですが、じわっと心にしみていく透明感が素敵です。このラルゴの最後はリタルダンドして終わります。次の楽章は疾走するアレグロ。身体が軽くなったような生き生きとした足取り。クセやアクがなく、節度を保って飛ばしていきます。そしてまた次の楽曲へ。ヴィヴァルディの音楽はこういうテンポ感や気分の交替が楽しいんですよね。

 もうひとつ、好きな部分はRV.230のラルゲットでハーディ・ガーディのようなひなびた音色が郷愁を誘います。「センスがいい」という表現だと足りないかもしれませんが、それでもカフェ・ツィンマーマンはとびきりセンスがいいアンサンブルだと言わせて下さい。私はカフェ・ツィンマーマンが、さまざまな古楽演奏のスタイルのいいところを取り入れて統合しているように聴こえます。保守的とか革新的とか、イギリスっぽいとか、イタリア的とか、そういうことではなくて(彼らはフランスを拠点にしていますが)、21世紀初頭の古楽演奏史においてスタンダードとなりうる様式をカフェ・ツィンマーマンは確立してしまったのではないかと、大げさではありますが感じてしまいました。彼らのバッハのDiscも最高です。彼らを世に問うたAlphaレーベルの功績は計り知れません。