フランク:弦楽四重奏曲&ピアノ五重奏曲/ダネル四重奏団(2013)555088

  セザール・フランク(1822-1890)の音楽は時々聴くべき音楽だと思っています。彼はゲルマン系の家系に生まれたベルギー人ですが、フランス文化の中に育ち、教会のオルガニストを長らく生業にしました。多様な背景の中で育まれた感性は、他に類を見ない抒情的な作品群を生み出しました。それは「人生」を語っているような音楽です。内向的な叫びのようであり、また時に前向きのようでもあります。

 フランクのピアノ五重奏曲ヘ短調はフォルテッシモの悲劇的な導入部が強い印象を残す室内楽の傑作です。フランクのメルクマールともいえる循環形式が現れた始めの方の作品にあたり、1880年に初演されました。

 私は以前何かの演奏でこの作品を聴いたことがあり、弦楽器のユニゾンの息苦しさや、晦渋な展開、あるいは作品のメランコリーに参ってしまいそうになりました。だから労作だとは拍手しつつ、若干の苦手意識を持っていました。しかし今回聴いたダネル四重奏団ユンパネン(ピアノ)のフランクは表情が違いました。なんというかフォーレを聴く時に感じるような憂愁の美が印象的なのです。

 ダネル四重奏団は1991年に結成されたベルギーの団体です。一聴して思うのは、研ぎ澄まされているということ。1stヴァイオリンのMarc Danelが全体をリードしているということが、音色のバランスから想像できます。ヴァイオリンの旋律にピタッとよせてくる内声の精密さは、ルネサンス音楽を得意とする合唱団のようです。ピアノのユンパネンもアンサンブルに徹しており、ソリストという感じが全くありません。ヴィブラートを抑えて、透明で張り詰めた世界を作り出しています。

 私はこのフランクが好きになりました。過度に深刻になることを避け、深い精神性を追求するというよりも、純粋に音楽を鳴らすことに徹しています。弱音での硬質な美しさに憂愁を感じます。劇的ではないけれども繊細に展開に起伏を持たせています。カップリングされているフランク最晩年の作品弦楽四重奏曲については、私が作品にまだ慣れていないので書きませんが、ピアノ五重奏曲での表現と同質のものだと感じました。

 ベルギー出身の画家であるクノップフのジャケットも作品の雰囲気に合いますね。