読書 植本一子 著『フェルメール』(ナナクロ社 Bluesheep)

   この美しいフォトエッセイに出会えて私は幸いです。

 本書は写真家・植本一子さんがフェルメールへの旅(第一回2018.3.20-26、第二回 2018.5.9-16)を慣行し、欧米各地の美術館や邸宅に点在する画家の作品を訪ねながら、写真家ならではの視点でその出会いを写真に記録しています。また、植本さんによる「旅の記録」が執筆されており、読者も一緒に旅しているような気分に浸れます。

 本書はフェルメールの学術書ではなく、画集でもありません。当然、フェルメールの絵画が被写体のメインになるわけですが、それ以上に主題となっているのは、絵画と鑑賞者、絵画と空間、絵画とコミュニティ、絵画と都市、それらの関係であり、フェルメールの周囲で起きるあらゆる出来事や空気感が見事に捉えられているのです。

 また、植本さんが一枚一枚の絵画とどのように出会い、見つめ、別れたのか。その心の動きや、視線の移動が写真から読み取れます。植本さんの視線は決して鋭いものではなく、とてもおおらかというかゆったりとしています。フィルムカメラの抑制された色調がそうした様式に合っていると思いました。修復中の作品や、撮影許可が降りなかった作品は、ポストカードを美術館の敷地でかざして撮影されています。ウイットが効いているし、これはドキュメントなんだと感じました。

 そして、フェルメールの美しさの本質に触れているのでした。

↑本書より写真を抜粋。オリジナルは構図や画質が異なりますので、参考程度とお考え下さい。