モーツァルト:ピアノ協奏曲第12、17番/ブレンデル&マッケラス&SCO(2004)4756930 or UCCP-1115

 モーツァルトとは実に絶妙な音楽です。喜びと哀しみ、平安と怒りとを行ったり来たりして、しかももっと微妙な心の移り変わりを鮮やかに表してくれます。私はそんな微妙な部分を表してくれる演奏が好きです。

 ブレンデルが演奏家人生の最後の方にフィリップスで録音した一連のモーツァルトシリーズは、ジャケットのポートレートとともに私のお気に入りのコレクションです。コンチェルトの伴奏はマッケラス率いるスコットランド室内管弦楽団。蜜月の2人と言えるでしょう。ブレンデルが2008年12月ムジークフェラインで引退公演した際もマッケラス指揮による「ジュノム」だったわけですから。

 

 老巨匠2人のモーツァルトは「純」なものへの憧憬と探求を感じさせます。K.453のアンダンテを聴いていると、澄み切った境地が感じられ、微妙に変化していく音の重さや硬さが生き物のように自然なものとして感じられます。ピアノと弦楽器、ピアノとオーボエ、ピアノとフルートまたはホルンの掛け合いや重なり合いは溶け合うような一体感があります。当然のことながらブレンデルとマッケラスという演奏家の性質上とても明晰な解釈と品格は保たれているのですが、K.414にしろ、K.453にしろチャーミングが曲想が存分に堪能できるので、リラックスして聴けます。「純」なもの、透明なものへと向かっていく様子が、何より素晴らしいモーツァルトでした。