ラヴェル:管弦楽作品全集/ブランギエ&チューリヒ・トーンハレ管弦楽団(2014、2015)4795524

 普段ドイツ語圏の音楽を多く聴く私にとって、フランスの繊細な輪郭を持った音楽に接すると、自分の中にある新たな感覚が呼び起こされるような気がしてすこぶる新鮮な思いがします。フォーレの音楽にあるようなアンニュイなムード、サティでもドビュッシーでも、アパルトマンの一室でピアノをポロンポロンやりながら試みられるひっそりとした革命のような音楽がたまらなく好きです。

 では、ラヴェルはどうだろうと考えたとき棚を探すとCDがないことに気がつきました。初夏の陽気が気持ちよく、気分を変えてみたくもあったので、このCDを買ってみたわけです。指揮者は初めて聞く名前でした。リオネル・ブランギエLionel Bringuierとは、いったいどんな演奏をする人なのでしょう。フランスのニースの生まれの新鋭ということで興味津々で聴き始めました。

  ラヴェルの音楽には明確な輪郭の旋律や耳に残るリズムパターンといったパリッとした部分と、移ろいやすく、極度に繊細な音の重なりと連なりがどんどん展開していくこれぞ印象派といった部分との両面があると思うのですが、その流動的な設計の妙というか、瞬間の美も、全体のドラマも見事に一つの作品に収める素晴らしさがあり、聴き手としては感覚的に楽しみやすく、また演奏者は難しいのではないかと思ってしまいます(私は楽器の経験がありません)。

  ブランギエのラヴェルはまずもって美演といって差し支えないでしょう。ラヴェルと言ったらオーケストレーションの魔術師なわけですが、どの曲でも一貫して楽器の潤いのあるピュアな音色を志向していて、ラヴェルの音楽がよくわかるように鳴っています。繊細なのですが神経質にならず、音楽がどんなに複雑になっても明快さを失わず、透明度も高い。癖がないし、大袈裟なことをしないので《ボレロ》などでは、もう少し色気とか遊びがあってもいいのかなと思うところもありますが、全集としての完成度はとても高いと思います。

 ですので、職人的に彫琢されたラヴェルだと思いますし、地味ながら信頼できる指揮者がブランギエという人なのかなと思いました。商品として新譜で全集、しかも安いのは最近の傾向なのでしょうが、消費者としては純粋に嬉しいかぎりです。