ヘンデル:水上の音楽HWV348-350/カールヴァイト&ベルリン古楽アカデミー(2015)HMC902216

HMC902216

  私がまだ小学校低学年だった時のこと、帰宅後の習慣といえばTVをつけて3チャン(教育テレビ)にまわし、炬燵でゴロゴロとすることだった。ミカンやせんべいがあれば上等で、そんな体たらくだったことが不思議といい思い出になっている。TVを観ていると5分くらいCGアニメーションの番組があり、BGMには決まってクラシック音楽が採用されていた。今でも覚えているアニメーションは『セビリアの理髪師』と『水上の音楽』で、「理髪師」とか「水上」という言葉を初めて知ったのもこの時である。

  《水上の音楽(ウォルシュが出版した時は「Celebrated Water Musick」と名付けられた)》は、小学生でも楽しめる親しみやすい名曲である。その一方、成立年代にいくつかの段階があることや、異稿がいくかあること、楽譜の種類もたくさんあるなど、学術的な問題が多いという面もある。そのため数多の録音がそれぞれ違った編成、曲順、規模で行われてきており、革新的な解釈が日々模索されているといえる。

 ここに聴くベルリン古楽アカデミーAkademie fur Alte Musik Berlinの演奏は、そうした革新的な試みとは一線を画し、オーソドックスな解釈の中に新鮮な抒情と躍動が感じられる。1717年の舟遊びでは50人規模のオーケストラが船の上にいたと、ロンドン駐在のプロシア弁務官は記録しているが、この録音では27人の人員により演奏されており、華々しい祭典という初演当初の雰囲気を再現するというより、室内楽的な繊細さを極め、また機動力を生かした引き締まりつつも弾力のあるリズムを核とした解釈が聴かれる。

 どこをとっても聴きどころ満載である。第13曲minuetではフルートとリュートのデュオが寄り添いながら親密でくつろぎのある流れを作り出している。第17曲Bourreeのティンパニソロは目覚ましい。第3曲Allegroではブイブイとファゴットの突き上げがユニークである。第6曲Airの弱音から徐々に立ち上がってくる美しい旋律を聴いていると、オペラでヒロインが歌う最も感動的なアリアを聴いているような気分になる。

 ベルリン古楽アカデミーの作り出す響きにはしっかりとした個性がある。出汁が効いていると言えばよいだろうか、とにかく旨みを多く含んでいる。そしてとっても澄んでいて美しい。