シューベルト:ピアノ三重奏曲第1、2番/ トリオ・ワンダラー(2000)HMC902002

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ロベルト・シューマンはシューベルトのピアノ・トリオ作品99が出版された際(1836年)に、次のような言葉を寄せている。

 

「シューベルトの三重奏曲を一目見ると、哀れな人間仲間の営みなどは霧のように消え去り、世界は再び新鮮な輝きを取り戻す」

 

1827年のシューベルトは死が翌年に迫る中、精力的に大作に取り組み続けていたわけだが、この年に共に作曲された2つのピアノ・トリオは長大でありながら、開放的な明るさ、健康的な様子が感じ取れる美しい作品となっている。シューマンの言うところの「霧」がかかった感じが無く、明朗としている。

しかし、この「長大」というのはなかなかやっかいで、うまくやらないと「冗長」に成りかねない危険をはらんでいる。シューベルトのドラマトゥルギーにおける独特な感覚は魅力でもあるが、難解さも併せ持ち、それがシューベルト晩年の情緒へとつながっていくから深遠だ。

 

トリオ・ワンダラーは1987年に結成されたフランスのトリオだが、2000年に録音されたこのシューベルトを聴く限り、すでにアンサンブルの極みに近づいている(そもそもトリオとして現在に至るまで四半世紀以上も活動し続けているだけでもすでに偉い気がする)。そうアンサンブル。それぞれの奏者は職人的で、表出的な部分を最小限に抑え、ハッとするようなフレージングの美しさとその統一(連鎖と言った方が音楽的か)で音楽を紡いでいく。それでいて音圧は十分ある。叙情的なセンスはそこそこに、引き締まった構成感が優先され推進していく感覚が心地よい。

3つの楽器が随分と細かく主役と伴奏を入れ替える音楽なんだなと思った次第。他の演奏では気づけなかった繊細な部分が見えてくる新鮮なシューベルトだった。