J.S.バッハ:クリスマスオラトリオ BWV248 / マックス (2009) 777 459-2    

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ヘルマン・マックスがJ.S.バッハのクリスマス・オラトリオを録音したということを最初に聞いたとき少し驚いた。いつもJ.S以外のバッハばかり録音する人が突然どうしたというのか。ある意味で、ミンコフスキとかフェルトホーフェン、バットなどの新しいバッハを標榜する話題盤よりもこれは興味深い。マックスはドイツ・バロックのマイナーな声楽作品群をあまりにも日常的に演奏している珍しい存在なのだから、彼にとってのJ.S.バッハもその延長にあり、必要以上に特別な存在なわけではないと思う。

早速聴いてみるとアプローチは自然で美しい。でもさらっと流れるようにというわけではなく、どの音にも注意深く気が配られていて、歌いこまれている。中でも耳を奪われるのは大編成の合唱曲で、どれも速いテンポなのだが、細かいフレーズまではっきりと聴き取れるようにコントロールされている。コラールも同様で合唱の威力は絶大である。

一方で、独唱者にはそれほどの魅力を感じなかった。アルトに美しいアリアが多い作品だけに期待してしまうのだが、それを歌うレームクール(Lehmkuhl)はどうもヴィブラートがうまく決まっていない。バスのフライク(Flaig)も響きが軽すぎ物足りない感じだ。同じく軽めだがテノールのコボウ(Kobow)、出番の少ないソプラノのヴィンター(Winter)はマックスの自然な流れにうまく乗っていていいと思った。独唱が控えめということは全体的に叙情性が低いということにつながっていく。でもそれはそれほど問題ではない。このオラトリオは概ね6つのカンタータの集合体であり、本来一気に演奏するようには構想されていない。大曲として華々しく演奏されがちのオラトリオを、ここまで美しく自然に演奏しているのだからやっぱりマックスの解釈は作品の本質に近いところにあるように思えてならない。少々の軽さはまったく気にならないということである。