至芸のK.ワイス

SR141
SR141

目覚めにバッハを、特に平均律から一曲弾くという人がいるらしい。A.シフはそれをシャワーを浴びるようなものだと言っていたっけ。

バッハの屈託の無い爽やかさは、確かに朝がよく似合う。特に平均律クラヴィーア第2巻BWV870は青春の響きというか、朝に聴くとすばらしく気持ちがいい。

さて、BWV870をP.J.ベルダー(ベルデル)で聴こう。ルッカースのコピー楽器はどこまでも広がっていくように響く。屈託の無いと書いたが、ベルダーの録音はまさにそうで直線的で若い。私はこの演奏が繰り返し聴きたくなる。

もうひとつ、最近出たばかりのK.ワイスの録音を聴いてみる。こちらもルッカースだが、タスカンが改良している歴史的楽器を使用している。ベルダーの開放的な広がりとは異なり、磨ききった音の粒が引き締まった音像に集約されていく。澄み切っている。テンポは揺れるが、ここぞと言う時のインテンポはさりげなく劇的だ。至芸である。K.ワイスのバッハはこれまでも何枚か聴いてきたが、響きに対する色彩感が素敵だと思う。手に入れたばかりの新譜、少しずつ平均律を聴いていく楽しみは格別だ。